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Column

「100点でした」と言えるまで

「100点でした」と言えるまで

盲目の日本人ピアニスト辻井伸行さんが、第13回ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールで優勝した雄姿に感動したのは記憶に新しいところです。

ハンディキャップを克服しての快挙などと賞賛されましたが、コンクールでの演奏は純粋に素晴らしく、盲目であることをあえて持ち出す必要があるのかと疑問に思うほどの「ブラボー」でした。

というより、最上級を意味する「ブラビッシモ」です。その一方で、クラシック音楽の演奏から個性がなくなっているという意見があります。

クラシックは“再生ミュージック”とも言われ、当時の作曲家の音楽性を尊重しながら曲を解釈するので、「音楽を奏でる」というより「音楽を作る」という表現のほうがしっくりきます。

技巧的な演奏だけなら、曲によっては子どもでもできるでしょう。しかし、内面から演奏するには大局観のようなものがないと難しいのです。ピアニストで作曲家のファジル・サイ氏はそれを「自らの“内なる声”」と表現しています。

素人判断でも辻井さんのピアノは確かに「内なる声」でした。コンクールでの演奏の出来ばえを訊かれ、「100点でした」と答えた笑顔からそれがうかがえます。

快挙と称えるなら、まずはその点ではないでしょうか。

相変わらずの不景気に多くの経営者が嘆いています。経済全体が低迷しているのだから自分の会社だけが頑張っても仕方ないと、頭の上を嵐が通り過ぎるのを待っています。

とはいえ強風に耐えられるのはレンガの家だけで、藁や木の枝の家は吹き飛んでしまうかもしれません。

そこで「うちの会社は藁の家だ」と両手を上げたらおしまいですが、「うちの会社はレンガの家だ」と慢心すれば、残念な結果になったアメリカの自動車業界とまったく同じ道をたどることでしょう。

こんな時代に全天候型の商売のヒントがあるとしたら、今できることを今やるだけです。

「やってるつもり」ではなく、「100点でした」と言えるまでブラビッシモでやることです。規模こそ違え過去にも嵐はありました。それを耐え抜いた経験による「内なる声」こそが、不況の今、使える商売のヒントだろうと思います。