アンデルセンの童話『赤い靴』をモチーフにしたバレエ映画『赤い靴』(マイケル・パウエル監督)の中で、主人公の少女ヴィッキーはある魔力を持った赤い靴に心惹かれ、その靴を履いてみます。
するとヴィッキーはいきなり踊り出し、最初のうちこそ楽しかったものの、そのうち疲れ果てても踊りをやめられず、最後は死んでしまいます。
赤い靴の魔力とは「一度、履いたら死ぬまで踊り続ける」というものだったのです。
ヴィッキーは“赤い靴の魔力”を知っていました。それでも赤い靴を履いてしまったのです。
「一度、試してみたい」という好奇心だったのか、「足を入れるくらいなら大丈夫だろう」と何の根拠もなく過信したのか、その理由は分かりません。
しかし、とにかくヴィッキーは赤い靴の魔力に負けてしまったのです。
さて、ここからは現実のお話です。金融パニックが本格的に表面化した直後に、NHKスペシャルでシティグループのCEOの言葉を紹介していました。
「(すでに危ないと分かっていても)音楽が鳴っているうちはダンスはやめられない」。
そう、世界の経済をリードする立場の経営者たちも“赤い靴”を履いていたのです。
「わかっちゃいるけどやめられない~」と、あの植木等のような調子の“魔力”に魅せられて稼いだ挙げ句、「ねらった大穴 見事にはずれ 気がつきゃ ボーナスァすっからかんのカラカラ」どころか大赤字です。
一緒になって“赤い靴”を履いていた投資家たちまでも、同じようにすっからかんのカラカラになりました。
人を惑わし、心惹きつける不思議な力。
それを「魔力」と言います。商売をしていると、実に様々な魔力に魅せられます。
しかし、経営者である以上は、どんなに心惹かれても履いてはいけない“赤い靴”があり、音楽が鳴っていてもダンスをやめる本当の勇気が必要なこともあります。
目先の小銭。いくら頑張ってもモトが取れそうもない設備投資。高額なセミナーまかせの社員教育等。
私たちの身の周りには、実に多くの“赤い靴”が溢れています。そして今、自らが“赤い靴”を履いた経営者になっていないでしょうか。
今一度、自分の足元をよくご覧になってください。